生命活動の本質とは?

生命活動の本質とは何かという問いには様々な回答がありますが、その有力な答えのひとつとして「遺伝子の発現(遺伝子が効果を表すこと)こそが生命活動の本質である」というものがあります。

遺伝子の発現を具体的に説明すると、生命の設計図である DNA の情報が mRNAにコピーされ、それがタンパク質に合成されて効果を示すことであり
この仕組みを生命のセントラルドグマ(中心教義)とも呼びます。

あらゆる生命活動においてすみやかに(多くは秒単位以内)遺伝子のスイッチが入ります。
例えば、食事をすればそれを消化するための酵素が遺伝子により作られ、光を感知すれば視細胞のタンパクが合成され、何かを一定期間記憶するときも記憶に関する遺伝子が働いて神経細胞同士が結びつきます。

一方、人間の全ての細胞には同じ遺伝子が入っていますがそれぞれの細胞においてどの遺伝子が発現するかはその細胞によって、また置かれた状況によって異なります。
筋肉になる遺伝子が発現すれば筋肉を構成するタンパク質が作られ、神経となる遺伝子が発現すれば神経細胞が作られます。
すなわちある細胞が特定の細胞に分化し発達していくということは、すべての遺伝子のうち特定の遺伝子が発現するように限定されることでもあります。
つまりあらゆる細胞に分化できる万能幹細胞が筋肉になるためには、神経細胞になる遺伝子や消化管になる遺伝子ではなく筋肉になる遺伝子が発現する必要があるわけです。
逆にいったん筋肉細胞になると万能幹細胞に逆戻りすることはできないと従来考えられてきました。
これを可能にしたのが iPS 細胞であり、原理的にはiPS細胞はどんな組織にも変化できるわけです。

これらの事実からいえることは、全ての細胞が等しく持っている遺伝子の中でどの遺伝子を発現させるか、あるいはオフになっている遺伝子をどうやってONにするかということが生命活動の本質であるということです。
記憶に関しては、情動や興味が長期記憶をもたらす遺伝子のスイッチオンに関与すると考えられています。
それと同様にある遺伝子が発現するのに何らかの意思の関与があるかもしれないという説が唱えられたこともありました。
その立場に立てば、気持ちの持ち方によって生命の本質を変えることができるかもしれないという解釈も成り立ちます。
そうであれば素晴らしいことですが、意志の力で遺伝子を発現できるかどうかについてはまだほとんどわかっていないのが現状です。                 

                                           2021.0302