頑固な咳について

頑固な咳について

咳は日常生活で しばしば経験する症状のひとつです。息苦しさや体力の消耗を伴うため一刻も早く抑えようとしがちですが、咳は異物や痰を気道からとりのぞく作用がありますから原因がはっきりしないうちに咳を無理に止めるのは考えものです。

咳の原因をある程度はっきりさせてから治療するのが望ましいでしょう。咳の持続日数や咳の多い時間帯、痰の性状、発熱の有無などをメモしてから受診すると咳の原因究明に役立ちます。

咳の原因には日頃経験することの多い風邪以外にも様々なものがあります。呼吸器疾患とそれ以外に大別して考えるとわかりやすいでしょう。

まず呼吸器疾患ですが、一番多いのは急性上気道炎(いわゆる風邪)でしょう。くしゃみ、鼻水や発熱、のどの痛みとともに咳がでて数日から数週間以内で自然に治まり、かつ全身状態が良好なら風邪による咳の可能性が高くそれほど心配はいりません。しかし咳が3週間以上続いたり、短い経過でも重篤感がある場合は肺炎や肺結核などの肺疾患の可能性も考えなければなりません。肺癌、塵肺、肺気腫、肺化膿症、肺吸虫症などそれ以外の肺疾患でも当然咳は出ますし、気管支炎、喉頭炎、胸膜炎など肺以外の呼吸器感染症による咳も比較的よくみかけます。

また気管支喘息、咳喘息、アトピー咳などアレルギーが関係した呼吸器疾患もあります。とくに咳とともに喘鳴が見られる場合は咳の誘因となるものがないか注意するとよいでしょう。なお気管や気管支に限局した炎症や腫瘍は通常の胸部レントゲンでは異常を示さないことも多く、咳が長期につづくのにレントゲンで病巣がみつからない病気として診断に苦慮することがあります。この場合は喀痰検査やアレルゲン検査、気管支鏡、肺活量検査、CTなどの検査が必要となります。

さらに心臓、鼻、食道など呼吸器以外の臓器が原因で咳が出るケースもしばしばあります。

その中で多いのはアレルギー性鼻炎や副鼻腔炎などにより鼻水がのどにまわり、それが刺激となって咳が続いているケースです。これは後鼻漏と呼ばれる状態で、そのために慢性の咽喉頭炎を引き起きおこしていることがあります。心臓の病気では、心不全の一種である心臓喘息と呼ばれる病態があり咳を伴います。食道の病気では逆流性食道炎が長引く咳の原因となることがあります。また、病気以外の原因としては、血圧降下剤の一種で、ACE阻害薬という薬を内服している場合に咳が続くことがあります。また、喫煙やのどの乾燥が咳を引き起こしているケースもしばしば遭遇します。これらの呼吸器疾患以外が原因の場合も心臓喘息などの例外を除いて胸部レントゲンでは異常を示しません。

次に咳の治療についてですが、最初に述べたように咳は生体の防御反応ですからむやみに止めるべきではありません。しかし体力の消耗を抑えたり、他への感染を防ぐ意味では咳を抑えることも必要です。

咳の原因によって当然治療法も異なってきます。呼吸器感染症の場合は去痰薬や鎮咳剤のほか、抗生物質、抗真菌薬などが用いられます。なおマイコプラズマ肺炎の場合は代表的な抗生物質が無効な場合があり注意が必要です。喘息では気管支拡張薬や副腎皮質ステロイドを投与することも多く、アレルギーが関与する場合は抗アレルギー薬も用いられます。逆流性食道炎が原因の場合は制酸剤とよばれる薬が著効を示すので、逆に制酸剤を投与してみてそれが効果を示すかどうかで診断の根拠とする場合もあります。このように通常の呼吸器疾患の治療では咳が長期に続く場合、耳鼻科や胃腸科の診察で診断がつく場合もありますので知っておくとよいでしょう。